-明けない夜はないU-


ひかりはやみをてらし、やみはかげとなる。



-明けない夜はないU-



コツコツ、と二人分の足音が真っ白で長く延びる回廊に響いては壁に吸い込まれていく。

「来る前にも言ったがここではコードネームを使え」

「うん」

扉の前で足を止めたレイに俺は頷き返した。

「行くぞ」

扉横に設置されているカードリーダーにカードを通せばパシュ、と扉が横にスライドした。

俺はレイの後に続いてその部屋へと足を踏み入れた。

「ジェイ!」

入った途端レイに声がかけられた。

「首尾は?」

「ばっちり。ただ、相手方が抵抗した際にクイーンの美しい顔に傷がついちまって…」

「キングが怒り狂って半殺しってところか」

「すまん。止められなかった」

クイーン、キング、会話に出てきた名前は俺も知っている。

レイと並ぶ幹部達だ。たしか全部で八名。

キング、クイーン、スペード、ダイア、クラブ、ハート、ジャック、エース。

「いやいい。それで今どこにいる?」

「指示通り地下三階の…」

「そうか、分かった」

片手を上げて制したレイに男はいえ、と返し俺にチラッと視線を向けてきた。

それに気づいたレイは俺の肩に手を置き、俺を男に紹介する。

「コイツがルークだ。仲良くしてくれ」

「へぇ、可愛いな。俺はエース。よろしくな」

ニコッと微笑まれ、右手が差し出される。

俺も慌ててよろしく、とお辞儀してその手を握ろうと右手を出した。

しかし…。

「エース、たとえお前でもルークに手ぇ出したら殺すからな」

レイに右手を掴まれ握手は出来なかった。

「分かってる。だから、そう睨むなよ」

そう言って苦笑したエースはあっさり右手を下ろした。

「じゃぁ、俺達は地下へ行ってくる」

「気を付けろよ」

掴まれた手をそのままに俺は何が何だか分からない内にその部屋を後にした。

再び長い回廊をレイと共に歩く。

「俺がルークだって知ってもエースの態度まったく変わらなかったな…」

「だから言ったろ。大丈夫だって。ここにお前を害する奴は誰もいない」

レイが事前に何かしてくれたんだろうって事が俺には分かった。

「…うん、ありがとう」

それからエレベーターに乗り、俺達は地下三階で降りた。

今度は鉄で出来た頑丈そうな扉を開けて、部屋の中へ足を踏み入れたレイに続いて俺も中に入った。

入った瞬間微かに血の臭いが鼻につき俺は眉を寄せてレイの服を掴んだ。

目の前には異様な光景が広がり、部屋の中央に手足を拘束され、椅子に縛り付けられ、目隠しまでされた男が一人。服はボロボロで露出した肌には血が滲んでいる。

そして、その男の横には男が二人、女が一人立っていた。

レイは俺の背を押して、椅子に縛り付けられた男の前までいくと口を開く。

「こいつに見覚えは?」

この人に?

首を傾げた俺の横でレイが指示を出す。

「スペード、目隠しをとれ」

ハラリ、と解かれた目隠しの下から出てきた顔に俺は目を見開いた。

「………ボス」

その男は俺が所属していた組織の最高責任者だった。



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